ジャズの合図(サイン) 〜“お約束”を知ればジャズはもっと面白い〜 vol.7

Take Five(テイクファイブ)

〜指パッチンが止まる5拍子の秘密〜

テレビCMや街角で、一度は耳にしたことがあるはずの「タツッタツッタンタン」というリズム。そしてあのクールで物憂げなメロディ。ジャズ史上最も売れた曲のひとつ、『テイク・ファイブ』です。

でも、この曲に合わせて手拍子をしようとすると、なぜか「おっと……」と手が空を切ってしまう瞬間がありませんか?それもそのはず。この曲は、人間が最も自然に感じる2拍子や4拍子を無視した、魔法の「5拍子」でできているからです。

この曲の正体:世界一有名な「割り切れない」快感

1959年、デイヴ・ブルーベック・カルテットによって発表されたこの曲は、ジャズ界に衝撃を与えました。当時のジャズは踊れる「4拍子」が当たり前。そんな中、ブルーベック自身のポリリズムへの探究心や実験的作曲手法から生まれた5拍子は、あまりに知的でクールでした。

ジャズ現場での役割は、ズバリ「集中力の限界突破」
この曲を演奏する時、プレイヤーの脳内はスーパーコンピュータ並みのフル回転を強いられます。なにせ、一瞬でも気を抜いて「1、2、3、4……」と数えてしまったら、その瞬間に演奏の輪から弾き飛ばされてしまうから。優雅にサックスを吹いている裏側で、メンバー全員が綱渡りをしているような、強烈な緊張感と一体感が必要な「見せ場」の1曲なのです。

現場の“お約束”:奇数の中に見出す「3+2」の黄金律

この「5」という不規則な数字を、どうやって全員で共有しているのか。そこにはステージ上の共通言語があります。

【心臓の鼓動を共有する 〜5拍子を「3+2」で解体する魔法〜】

5拍子をそのまま「1、2、3、4、5」と均等に数えるのは、実は至難の業。現場ではこれを「1・2・3(強・弱・弱)+ 1・2(強・弱)」という2つの塊に分解して捉えています。
ドラマーが叩く「ズン・チャ・チャ、ズン・チャ」というリズムの刻みが、メンバー全員の心臓の鼓動代わり。もし誰かがこのリズムを崩しそうになったら、他のメンバーはベースの低い音を強調したり、ピアノの連打を強めたりして、「ここが1拍目だよ!」と音で修正をかけます。演奏者がお互いに頷き合う回数が多いのは、このリズムの塊を常に確認し合っているからなんです。

【孤独なドラムソロからの帰還 〜目線ひとつで「カオス」を終わらせる〜】

この曲の最大の見どころは、メロディが消えた後の長いドラムソロ。ドラマーが自由奔放にリズムを叩きまくる間、ピアノとベースは同じフレーズを延々と繰り返して帰還を待ちます。
「いつソロを終えてメロディに戻るか」の合図は、ドラマーの「スティックの上げ方」と「視線」
ドラマーが突然派手な連打(フィルイン)を入れ、顔を上げてフロントマンをカッと見つめた次の瞬間、あの「タタッタタタンタン」というメロディが帰ってきます。この一瞬のアイコンタクトこそが、迷宮からの脱出サインなのです。

オリジナルメンバーによる伝説の映像。ドラムソロ中、ピアノのデイヴがじっとドラマーを見守る「信頼の視線」に注目。

ドラムソロはないけれど、ホーンとリズムセクションが5拍子のグルーヴをぴたりと揃え、音そのものが「ここが1拍目だ」と語りかけてくる瞬間に注目。

オーディエンス&初心者への見どころ

指パッチンを「3拍・2拍」の交互で狙う!

ライブでこの曲が始まったら、無理に4拍子で乗ろうとせず、心の中で「イチ、ニ、サン」「イチ、ニ」と2つのグループに分けて数えてみてください。
すると、不思議なことに、今までバラバラに聞こえていたドラムのアクセントやピアノのフレーズが、ひとつのうねりとなって聞こえてくるはずです。サックス奏者が吹き終わった後にドラマーへ送る「あとは頼んだぜ」という目配せも、最高の見どころですよ。

会場でこの曲に出会ったら、ぜひ勇気を持って「5拍目」の隙間に手拍子を滑り込ませてみてください。会場全体で「5」を感じる一体感は格別です。


『テイク・ファイブ』は、不規則なリズムの中で演奏者が「合図」を送り合い、ひとつの正解を導き出す、究極のコミュニケーション・ソングです。次に聴くときは、ぜひ彼らがどうやって「5」を数え、どうやって迷宮から抜け出すのか、その目配せの応酬を見届けてください。

次回もお楽しみに!

次回予告

指揮者がいなくても、ドラマーの「スティックの高さ」と「音の勢い」だけで全員がシンクロする、THEビッグバンドな阿吽の呼吸。

『Sing Sing Sing(シング・シング・シング)』

あの有名なフロアタムの連打から、どうやって全員が完璧に吹き始めるのか?その正体に迫ります。

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