ジャズの合図(サイン) 〜“お約束”を知ればジャズはもっと面白い〜 vol.2

The Chicken(ザ・チキン)
〜16ビートの熱狂を呼ぶ、不変のベース・リフ〜
こんにちは。八王子ジャズフェスティバル実行委員会の中の人です。
第2回は、イントロが鳴った瞬間に会場の温度が一気に上がるファンクの定番曲 『The Chicken』 を取り上げます。
セッションでこの曲が始まると、空気は一瞬で“お祭りモード”。
今回は、その熱狂を生み出す「合図(サイン)」の正体に迫ります。
この曲の正体:ファンクからジャズへ渡った最強のリフ
『The Chicken』の命は、冒頭から鳴り響く特徴的なベース・リフにあります。
この曲を作曲したのは、Pee Wee Ellis。
彼は“ファンクの帝王”James Brown楽団の中心メンバーとして活躍したサックス奏者でした。
1960年代末、ジェームス・ブラウン楽団の演奏によって世の中に広く認知された『The Chicken』は、B♭を軸にした跳ねる16ビートのベース・リフによって強烈なグルーヴを生み出します。
では、なぜこの曲がジャズ・セッションの定番になったのでしょうか。
転機となったのは、天才ベーシスト
Jaco Pastoriusによる演奏でした。
ジャコがライブでこの曲を取り上げ、スピード感と高度なアドリブを加えたことで、『The Chicken』はジャズ・ファンクの代表曲として再評価されます。
特にライブ作品『The Birthday Concert』などの演奏を通じて世界中のプレイヤーに広まり、現在ではセッションの定番曲となりました。
The Birthday Concert byJaco Pastorius
こちらは元になったJames Brown楽団の演奏
現場の“お約束”:始まりを告げる音のサイン
『The Chicken』では、言葉やカウント以上に音そのものが合図になります。
【チキンの合図①:ベースのリフ】
セッション中、ベーシストが突然あのリフを弾き始めたら——
それが「チキン行こう」の世界共通サイン。
説明も打ち合わせも不要。
リフ一発でバンド全員が同じ曲を共有できる、極めて機能的な“音の合図”です。
【チキンの合図②:全員集合のキメ】
各ソロが展開したあと、テーマへ戻る直前には全員でリズムを揃える強烈なキメが登場します。
これはファンク由来のシャウト・コーラス的な瞬間。
「ダ・ダ・ダ・ダッ!」とバンドが完全に同期したとき、演奏と会場のテンションが一気に爆発します。
ここが決まるかどうかで、その日の“チキン”の出来が決まると言っても過言ではありません。
【ベーシストからの無言のサイン】
実はこの曲、ベーシストにとってはかなりの体力勝負。
高速の16ビートを延々と刻み続けるため、ソロが長引くほど右手の指は悲鳴を上げています。
もしベーシストが必死な表情をしていたら——
それは「そろそろテーマ戻ろう!」という無言のサインかもしれません(笑)。
オーディエンス&初心者への見どころ
冒頭リフを聴き逃さない
ベースがあのリフを弾いた瞬間、それが開演の合図。
50年以上前に生まれたファンクのグルーヴが、今もライブ現場を動かしています。
「キメ」の一体感を楽しむ
演奏者同士のアイコンタクト、緊張、そして爆発。
ジャズならではの“音の会話”が最も分かりやすく現れる瞬間です。
JBが生み出し、ジャコが世界に広めた「最強のリフ」。八王子のライブハウスでも、このリフが鳴り響けば、そこはもう極上のファンク・パーティ会場です。キメがバシッと決まったときは、ぜひ惜しみない拍手を!
「あのベーシストの指使い、すごかった!」といった感想や、リクエストもお待ちしています。
それでは、次回もお楽しみに!
次回予告
セッションで最も多く演奏されるスタンダードのひとつ、
『All Of Me』。
かつて、この曲の演奏前には“指一本”が掲げられる光景がよく見られました。
しかし最近のセッション現場では、その光景が少しずつ変わってきているようです。
ボーカル・セッションならではの「キー指定」という重要な合図と、現代のリアルな舞台裏を紐解きます。
