「格好良く、本物に近づく。」正則学園高等学校ビッグバンド部 EMPが、ジャズで育てているもの

2026年11月14日開催の八王子JAZZ DAY 2026では、特別プログラム「Music Without Borders」に、正則学園高等学校ビッグバンド部「EMPバンド」が出演します。

今回の企画では、米国空軍太平洋音楽隊 Band of the Pacific “Final Approach”をはじめ、世代や立場の異なるミュージシャンたちが同じステージに立ち、音楽を通じて交流します。
その一員として参加するEMPについて、私たちは公式マガジン
「802 Swing Lognote」でも紹介する予定です。

一方で、今回の取材では、バンドの成り立ちや活動への思い、生徒たちの声など、誌面だけでは紹介しきれない背景や言葉もたくさん伺うことができました。
そこでWebでは、一足先に、802 Swing Lognoteとあわせて楽しんでいただけるロングバージョンとしてご紹介します。
特別プログラム「Music Without Borders」のステージを見る前に。
まずは、EMPというバンドのことを少し深く知ってみてください。

JAZZを通して格好良く、本物に近付こう

正則学園高等学校ビッグバンド部「EMPバンド」には、創部以来大切にしてきた言葉があります。

上手な演奏をすることだけが目的ではない。

コンクールで一番になることが目標でもない。

自分たちが音楽を楽しみ、その楽しさを客席へ届けること。仲間と音を聴き合い、一つの演奏を作り上げること。そして、その経験を通して、一人の人間として少しずつ「格好良く」なっていくこと。

2026年11月14日、正則学園高等学校ビッグバンド部 EMPは、八王子JAZZ DAY 2026のステージに立ちます。
今回は、顧問の阿部先生と部員たちから伺った内容をもとに、EMPというバンドがどのように生まれ、何を大切にし、今どこへ向かおうとしているのかをご紹介します。

格好良く、本物に近づく

EMPの原点は、2006年にさかのぼります。
当時、部員ゼロだったブラスバンド部を先代の顧問が引き継ぎ、まず集めたのが8人の生徒たちでした。

そこから、「これから何をやるのか」を考えることになります。
最初からあったのは、「格好良くありたい」という思いでした。
男子高校生が演奏したら、一番格好良く、一番似合う音楽は何だろう。

そこで出てきたのが、ジャズでした。

譜面に書かれた音を一つも外さず再現するだけではなく、その場で音を感じ、自分なりに表現する余白がある。
多少思い通りにいかなくても、それすら演奏の一部として受け止め、思い切って音を出す。
そんなジャズの自由さが、彼らの目指す姿と重なりました。

翌2007年、部の名称は「ビッグバンド部」へ。
そして受け継がれてきたバンド名が、EMPです。
EMPは、
Enthusiastic Music Performers Band
の頭文字。
日本語にすれば、
「情熱的に音楽を演奏するバンド」
という意味です。
20年近い時間を経た今も、その名前と精神は現役の高校生たちへ引き継がれています。

上手いバンドを目指しているわけではない

EMPが目指しているのは、コンクールで一番になるような「上手いバンド」ではありません。
もちろん、演奏が上手くなるための練習はします。
けれど、譜面通りに間違えず演奏することだけが音楽なのかといえば、EMPの答えは少し違います。

多少音を外してもいい。
失敗を恐れて小さくまとまるより、思い切り、楽しく、堂々と演奏する。
まず演奏している自分たちが楽しむ。
そして、その楽しさを客席へ届ける。

「上手いかどうかの評価よりも、まず自分たちが楽しみ、その楽しさをお客さんに届けたい。ナンバーワンではなく、オンリーワンのバンドを目指しているんです」
そう語るのは、顧問の阿部善宏先生です。

だからEMPは、コンペティションやコンクールに挑むことより、ジャズフェスをはじめとした人前で演奏する機会を大切にしてきました。
誰かと比べて一番になるのではなく、自分たちにしかできない演奏をする。
それが、EMPのジャズです。

スーツは、彼らの「勝負服」

EMPのステージには、もうひとつ大切なルールがあります。

本番では学校の制服を着ない。

ステージに立つとき、生徒たちはスーツに身を包みます。
意識しているのは、ジャズの本場ニューヨークのステージスタイル。
でも、スーツは単なる衣装ではありません。
教室では笑っていたり、ふざけていたりする普通の高校生が、スーツを着て楽器を手にした瞬間、空気が変わる。

「顧問として最も痺れる瞬間は、本番の舞台で彼らが“本物らしく格好良い”姿を見せるときです」
阿部先生はそう話します。

実は阿部先生自身、顧問になる以前からEMPの一ファンだったそうです。
理由は、とてもシンプル。

「格好良いからです」

スーツは、日常からステージへ気持ちを切り替えるスイッチ。
EMPにとっての、いわば勝負服なのです。

「本物らしさ」とは何だろう

ただ、EMPが掲げる「本物に近付こう」という言葉は、服装だけを指しているわけではありません。
今年度、阿部先生がひとつの課題として感じていたことがありました。
一人ひとりが個人練習や曲の練習に一生懸命取り組む一方で、いつの間にか「譜面通りに演奏すること」そのものが目的になりつつあったことです。

正しい音を出す。
自分のパートを間違えない。

もちろん、それも必要です。
けれど、それだけでは「みんなでジャズを演奏する」ことにはならない。

仲間の音を聴く。
リズムを感じる。
その日の空気を共有する。
そして、全員でひとつの音楽を作っていく。

「一人ひとりが譜面通りに演奏することに集中しすぎると、それはジャズ集団として“本物らしい”姿とは少し違ってくるんです」
阿部先生は、今年のEMPについてそう振り返ります。

八王子JAZZ DAYが、ひとつの転機に

そんな中で決まったのが、八王子JAZZ DAY 2026への出演でした。

出演が決まったことをきっかけに、部員たちはあらためて「全員で基礎練習をする」ことへ目を向け始めました。
基礎があるからこそ、その先で自由になれる。
自分の演奏だけでなく、隣にいる仲間の音を聴けるようになる。
そして、譜面の向こう側にある、自分たちらしい表現へ進んでいく。

「基礎がしっかりしていて初めて、自分たちらしい演奏が追求できると思っています。今回の八王子JAZZ DAYでは、緊張感も含めて全部はね返すくらい思い切り楽しんで、“ジャズを演奏することの楽しさ”をみんなで見つけてほしいです」
阿部先生は、今回の出演にそんな期待を寄せています。

「GRIT」――最後まで、みんなでやり抜く

EMPで大切にしているもうひとつの言葉があります。

GRIT。

情熱と粘り強さを持って、簡単には諦めずにやり抜く力。
阿部先生は、ビッグバンド部での活動を通じて生徒たちが身につけていくもののひとつが、このGRITなのではないかと考えています。

高校生活には、音楽だけがあるわけではありません。
授業や補習、課題、塾、通院、体調。
それぞれに事情があり、練習量に差が生まれることもあります。
一生懸命取り組んでいても、なかなか思うように上達できないこともある。
「このままでは本番に間に合わないかもしれない」。
そんな状況になることさえあります。

一人のソロを、全員で待った

実際、最近の本番でもそんな出来事がありました。

ある生徒のソロパートが、本番に間に合うかどうか最後まで心配されていたのです。
阿部先生は、部員たちに「万が一、間に合わなかった場合はどうするか」も考えておくよう伝えました。
部員たちは代替案を考えました。
でも同時に、仲間ができるようになることを最後まで信じていました。

そして、本番直前の合わせ。
その生徒は、ソロを演奏できるようになりました。
全員で、そのまま本番へ。
ステージを最後まで乗り切りました。

「我々EMPバンドは、決して上手なバンドではありません。でも、この“全員でやり抜いた”という経験こそが、何より尊いと思っています」
阿部先生はそう振り返ります。

演奏の出来以上に大きかったもの。
それは、仲間を信じて、全員で最後までやり抜いた経験でした。

生徒たちに聞きました。「あなたにとって、EMPとは?」

ここまでは、主に阿部先生の言葉からEMPを見てきました。

では、実際に演奏している部員たちは、このバンドをどんな場所だと感じているのでしょうか。
聞いてみると、返ってきた言葉はそれぞれ違いながら、どこか同じ方向を向いていました。

「楽しくジャズを学べる場です!!」

また、別の部員はこう答えます。

「JAZZを通して仲間との絆を築くことができ、部活が休みの日には早く部活に行きたい!と、そう思える場所です」

そして、

「演奏という一つの目標に向かって切磋琢磨できるような部活です。」

さらに、

「皆で協力して演奏を形にしていく場所です。」

という声もありました。

阿部先生も、こうした生徒たちの言葉について、
「やはり“皆で”という部分は、部員みんなが実感し、大切にしているところなんだと思います」
と話します。

ビッグバンドは、一人だけ上手ければ成立する音楽ではありません。
サックスがいて、トランペットがいて、トロンボーンがいて、リズムセクションがいる。
誰かの音を聴きながら、自分の音を出す。
誰かが苦しんでいるときには、みんなで支える。
一つの目標へ向かって、それぞれの役割を持ちながら進んでいく。
だからEMPで身につくものは、楽器の技術だけではないのでしょう。

12人で鳴らす、2026年のEMP

現在の正則学園高等学校ビッグバンド部は、12名。
アルトサックス2名、テナーサックス1名、トランペット3名、トロンボーン2名、ギター、ベース、ピアノ、ドラムが各1名という編成です。

2006年、8人から始まった活動。
2007年にビッグバンド部となり、世代を越えてEMPの名前が受け継がれてきました。
でも、伝統を守るということは、昔と同じ演奏をすることではありません。
その年、そのメンバーだからこそ鳴らせる音を見つけること。
2026年のEMPもまた、今の12人にしか作れないバンドを探している途中です。

完成された正解ではなく、今のEMPにしか鳴らせないジャズを

「JAZZを通して格好良く、本物に近付こう」。

その「本物」は、プロと同じように完璧に演奏することではないのかもしれません。

失敗を恐れず音を出すこと。
仲間の音を聴くこと。
自分たちが心から楽しむこと。
思い通りにいかなくても、最後までみんなでやり抜くこと。
そして、その音を客席と分かち合うこと。

スーツに身を包んだ高校生たちが、八王子のステージで鳴らすのは、完成された「正解」ではありません。
迷い、練習し、失敗し、支え合いながらここまで来た、
2026年のEMPにしか鳴らせないジャズです。

八王子JAZZ DAY 2026。
ぜひ彼らの演奏を、会場で聴いてください。


DATA

正則学園高等学校ビッグバンド部 EMP Band

正式部名
正則学園高等学校ビッグバンド部

バンド名
EMP Band
Enthusiastic Music Performers Band

活動のルーツ
2006年

ビッグバンド部としての活動開始
2007年

2026年度部員数
12名

モットー
「JAZZを通して格好良く、本物に近付こう」


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  • 八王子ジャズフェスティバル実行委員会の中の人です。
    Webの担当してます。
    あと、ベース弾いたりもします。

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